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日付:

2010/10/17

タイトル:
81−1
著者:

夏木マリ 

出版社:

講談社

書評:

 

 「2階まで一気に駆け上がれる男」―これは本書の巻末・男のアーカイブ26の中の最終項目(26番目は「夏木マリが好きな男」だから番外・もし嫌いな男が居たら是非お眼通り願いたいものだ)である。これこそ夏木マリ流の実力評価主義、年齢制限ではないところがミソ。芸能人にもゆるい奴がいる、との女王様ならではのオフレコ発言により、さあ世の男衆よ、勇気を鼓舞して立ち会い給え。ヒット曲「絹の靴下」で一世を風靡したボーカリストが、往年のオーラに包まれたままメディアに再登場、秘かな謁見の間で男心が疼く。表題の「81−1」はオントシ80歳を最終ステージとした信仰告白ではないにせよ、実人生の中味の濃さ、熟女のエッセンスたるや、100歳まで有効だ。ちなみに最終79章には「明日を信じられないから頑張れる。カッコよく終わりたいだけ。」とある。やわな希望は却って人を老いさせる。明日には明日の風が吹く、これは憧れのハリウッド体験に挫折を味わい、半年のニューヨーク滞在中に学んだ彼女の人生哲学でもあった。

 幸福はぼんやり者の頭の上を通り過ぎる、だが彼女の存在によって眼を醒ます。敬愛する俳優バーコフをして瞠目せしめた彼女のみごとな立ち居振る舞い、身体表現の厳しさと細やかさは、第二の表現スタイル=文章の隅々に深く染み渡る。彼女は又、かの細木数子のように闘う女の典型でもある。だが、あの性質の悪い「傲慢」とは似て非なるもの、センスと教養に磨かれた美貌のひとの、世間の渦に巻きこまれまいとする毅然とした態度には花がある。箴言集39章「頭の悪いヤツは生き残れない」は、「いい人ほど早死にする」世の中への辛辣な当て擦りであろう。だからこそ彼女は用意周到に武装するのだ。自作自演の独り舞台「印象派」はそんな彼女の半生を際立たせるステイタスシンボルとなった。彼女にとって自由とは偶発的なものではなく、厳密に計算され規律化された個性、本書「81−1」は半ば伝説化された画一的で平穏な池面(イケメン)社会に一石を投ずること間違いなしの好著である。

 

 

 


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