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日付:

2013/01/20

タイトル:
悪徳
著者:

エルヴェ・ギベール 

出版社:

ペヨトル工房

書評:


  マルドロールの手術台で肉体の惨劇はなかった。元々生態系とは無縁で場違いでしかないミシンとこうもり傘を主役の座から引き摺り降ろし、日常生活の匿名性に潜むパワーを引き出すかのように、ありとあらゆる日用品の克明な描写を試みた<事物詩>の世界が本書である。物自体が剥き出しになることを「悪徳」と称したのであれば、これでもかと繰り出されたレディメイドのオンパレードには淫らな興奮が渦巻いている筈である。これらの陳列品には用途や機能に関しての即物的な説明以外に何もないのだが、言語操作による物の引越しはみごとと言うほかはなく、まるで額縁の中の絵を観るように手応え充分である。これが単なる我楽多コレクションに留まらないことは第二作「犬たち」でも証明されている。即ち、お互いのポテンシャルエネルギーが強迫観念となって向き直り、様々な位置関係で自然接合して肉体言語と化すさまがポルノ小説風に擬人化されて描かれている。異空間が縦横無尽にスライスされて固い面となり、重ね合わされてコンパクトな本となったかのように、ページのあちらこちらには涎や鮮血が飛び散っている。ここに描かれた凄まじい3Pのサド・マゾコンプレックス的光景は、もう一人の性の冒険者・フーコーの関心を引き寄せるためのものであるらしい。三次元世界に共有のシステムから解放されたオブジェの断片=生体感覚は眼を背けたくなる偏執狂的な倒錯の世界である。意識の地獄もここまで来ると救いようがない。デュシャンやマルドロールの世界の方がまだしも文学的でロマンチックに思われる。このファナチックで不幸な両性具有者、エルヴェ・ギベールに同情は禁物。言葉の表皮を剥ぐや沈黙が死なのだ。

 

 

 


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