そのままでは意味不明なタイトル「AMEBIC」だが、発音はアミービックで、自己破壊劇を含意した英文略語のことらしい。「死んだ状態」が気分としては正反対と自注にあるから、生き甲斐い探しの本ということになろうか。
誰もが味わう日常の共通感覚を相手取り、とことんまで異議申し立てに及ぶ拒食症の女主人公は作者その人であろう。重度の薬物中毒、しかも食事代わりにジントニックを飲み、口にするものといえば沢庵ほか漬物少々、便意・尿意をミニマムに押さえ、偶々同席したパートナーの食欲には決まって吐き気を催す。不幸の元凶である脳を痛めつけて、作文ならぬ<錯文>を毎晩、書き散らして我を忘れる。
身辺雑事は単純そのもの、モードには入念だが、幾度もレシピで菓子を作り捨て、他愛もない精神生理を、格闘技のような一人芝居で締めくくる。そんな彼女にとって「私という他人」は所詮、思い込み以外の何ものでもない。アィデンテティ・フリーこそ望ましい。勢い多重人格は多細胞人間とならざるを得ない。エイリアンという自己定義に相応しい小説世界となったが、ちなみに恋人の婚約者のパティシェと言い争う場面では、まるで異星人同志だ。
編集者とのやり取りで<錯文>の公開云々については、物書きとしてまともな反応を示す。毒を喰らってポエジーそのものと化すには至らない、少女ランボーの底の浅さが気になるが、次作に更なる爆発を期待したい。
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