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日付:

2010/11/5

タイトル:
暗黒の富士宗門史
著者:

河合 一

出版社:

第三文明社

書評:

 

  なんとも禍禍しい表題だが、「日顕宗の淵源を切る」と副題にある。あからさまな個人攻撃とみせかけて、己の拠って立つ宗教的基盤を根元から断ち切るというのだから恐ろしい。日蓮・日興・日目の樹齢700年に喃喃とする大石寺血脈の御三尊が切り株のように陽に曝され、あれほど世間を騒がせた本山の変も一場の悪夢となって跡形もない。辛うじて中興の祖が無残な切り口に芽を吹いている。だが自損行為なんかでは断じてない、服飲後、忽ち清涼感に満たされる、これは効果的面の鎮静剤であった。一点の否の付け所もない記述にはすっかり感心してしまうのだが、このような教科書的知識を一歩も出ない人たちのことを思うとぞっとする。まして疑わざるを以って真となす世界である。又ひとつ新種の歴史教科書が誕生した。これで洗脳部隊の偶像崇拝熱が再び息を吹き返すだろうことは火を見るよりも明らかだ。

 それにつけても、不毛なレトリックを駆使して戦後処理に取り組んできた我国の思想の受難者たちに、雨後の筍のような新興宗教の世直しモードは逆風の上にも逆風となったことだろう。もはやあとには引けぬ経済主導の急速な国際化である。とりわけ「領有権なき実効支配」等と陳腐化される領土問題は、手の施しようのない二次災害、―なんでもありの社会現象を招来している。敗戦のトラウマに平和憲法の麻酔を施され、政治不在の国民感情には未だに愚にも付かぬ処方箋があてがわれたままである。津波のような巨大集団が我国のトレンドに一大変事を起こさないわけがないのだ。

 案の定、それは前代未聞の変事となった。メディアを騒然とさせた「創価学会VS共産党/宗門VS池田大作インターナショナル」事件は私たちの脳裏に尚生々しく焼き付けられている。それは憲法の箍を緩ませ民主主義の根幹を揺るがしかねない、「国立戒壇」をキーワードとした古くて新しい宗教政治論争であった。本来が妥協の積み重ねである政党政治と、原理主義を一歩も譲らない宗教活動とでは水と油の関係である。俄かにクローズアップした「祭政一致」論争は、言語明快だが意味不明瞭、多くのひとを巻き込み古代社会にタイムスリップしたかのような錯覚を抱かせた。その目的とはおよそ似ても似つかない、反政治的で反宗教的な自家撞着の罠に陥り、提唱者自体、遂には方向転換を余儀なくされた。おそらく経緯と言えばそんなものではなかったろうか。人あって大河を降り、清濁合わせ揚々と大海に望む。正法護持から弘通の時代へ、確かに疾風怒濤の変節期にあって、本書が提示する今日的なテーマには考えさせられる一面がなくもないのだが・・・。生憎、かく言う私は大河小説「人間革命」の決して良い読者ではなかった。


 

 

 


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