「あの戦争」−真珠湾攻撃に始まり、ポツダム宣言受諾で幕を閉じた太平洋戦争のことだが、原爆被災国として歴史的刻印を押された我国も、戦後漸く、60年ワンサイクルの世代交代を終えた。しかし、この世界的な事件も戦争を知らない世代には実体のない影としてしか伝わりようがない。戦争が現実の問題である時、平和は理想でしかないが、平和憲法が現実の問題とどう拘るか、その取るべき態度に就いて真に語れる者はいない。
「−泣くな、阿南、朕には自身がある。」・・戦後処理の両側面は戦争責任と国体護持だが、これは後者に就いて責任の一切を引き受けることを誓った天皇の有名な言葉である。軍事上の責務は、東条ほか、軍部にある。これは戦犯として裁かれた通りである。実は、この二文法と平和憲法で締め括られたところに第二次大戦の大きな特色があった。嵐は去ったが、暗礁は残った。更に言えば発端がどうあれ、また犠牲の如何に拘らず、歴史的必然というものはある。
本書は忘れることではなく、正しく認識することで歴史的現在に眼をむけよ、と教えている。戦時中の「大本営」から「棄民」まで、戦争という書き手が描いた人間模様は今も形を変えて生きている。
平和が戦争という病に侵されない為に、無菌状態であれば良いという論法は成り立たない。一方、9条が自己免疫の問題として絞り込めるわけでもない。
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