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日付:

2012/12/15

タイトル:
売国奴に告ぐ!
著者:

中野剛志・三橋貴明

出版社:

徳間書店

書評:

 「身の丈に合ったものを選び、大きく成長して欲しかった」「今は物ではなく人を守るべき時です」―そんな感動的なセリフを残して、韓国時代劇<キム・マンドク>は最終回の幕を閉じた。この作品には市場を介して人間愛を貫き、全財力を擲って政府もなし得なかった貧民救済に挺身する女性と、商魂逞しく利益追求にのみ固執して残忍な振舞いに及ぶ女性の両極端な商人の生き様が浮き彫りにされているが、膠着した身分制度の弊害に同時にメスが入ることで、時代の閉塞感を打ち破る恰好のモデルともなり、多くのひとの共感を呼び起こし好評を博したようである。そもそも万人の琴線に触れるドラマの誕生秘話には抜き差しならぬ国情は無論のこと、外貨獲得の悲願もあって、その背景もさることながら、マス・メディアのお陰で人類共存の壮大なテーマもリアルタイムにお茶の間の談話に溶け込む昨今である。自由立国でさえあればどんな番組もオンラインで越境させ国民的リスクを配分することが容易なのだが、皮肉なことに、この社会現象はもともと、多くの若者を経済機構から抓み出し魂の引籠もりを誘発しているグローバリズムと背と腹の関係にあるのだ。テクノロジーが伝統精神を掘り起こす如意宝珠となるのはよいとしても、「温故知新」とはベクトルが逆で些か気になるところではある。だからと言って、存在すること以上に根治不能な「地球病」があるとは思われない。

 働き盛りでもあり、<上から目線>に敏感な団塊ジュニアの中から、漸く聡明で血気盛んな論客が現われた。泥酔状態で何度も寝返りを打つ親父の枕元で、歯に衣を着せず大いに語り合ったのが本書である。「エリートが馬鹿で国民が賢いから、まだ日本は何とかなる」と意気投合した二人は機体と滑走路の最終点検整備を終えたばかり。さあ、管制塔の旗が揚がった。名パイロットの操縦手腕や如何に。世界一の国際空港から飛び立つ空はあるのか? あの荒れ模様の空路の何処かにまた思わぬエアポケットがあるかも知れない。油断は禁物、好材料が整ったところで一挙に地盤沈下したのがバブル経済であった。それも公共事業が好況事業であった時代のシナリオではあるのだが、経済活動とは何処までも地続きの物語なのであって、今も昔も<神話の森>にはフェアリー達の賑わいしかありはしない。要するに物の見え方は頭の働きで変わるのだ。ところで、本当に物が見えていたのだろうか? 頭があるにも拘らず物を判断していたのだとしたら?―そんな大袈裟な自意識に振り回されて20世紀は天誅自刃した。平成24年の我国は新世紀に10年以上も先駆けて物を読み取る能力がある。至極平静で相性抜群のお二方の世相分析による結論は正解だらけではないか。しかし、どんなにIQ抜群でも温室培養された「エイリアン値」であれば望むものはなにもない。限りなく透明に近いプールに魚影をみつけることは不可能だからである。

 歯止めの効かない「新自由主義」の弊害、自縄自縛の「覇権大国」の瀕死の迷走、議会主義がタテマエでしかない「ロビー活動」の功罪、とりわけ矢面に立たされるのは穴を掘って埋めることが意味を持つ「公共事業」、事実上も原理的にも、譲り合うことで始めて生きる「民主主義社会」等など、出てくるわ、出てくるわ、間違いの数だけ有効な処方箋が。― えっ!失われた20年?一体何を寝とぼけたことをおっしゃるのです。暮景における物象の影が途轍もなく長いからといって白昼に騙されていたわけではありますまい。原始的混沌状態でのぼせあがったダンスの足踏みを一端とめて、「はい、では、皆さん、はい、ご一緒に、テンポ正しく握手しましょう。」*

 そんなことを感じさせてくれた貴重な一冊である。

 *「はい、では、皆さん・・・・」 中原中也の詩から

   文中の<テンポ>は<店舗>の親父ギャグ

 

 

 


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