オンラインのアマゾンとオフラインのブックオフ、出版不況にも拘らずどちらも業績は好調のようである。寧ろ、出版不況だからこそというべきかも知れない。アマゾンがeコマースの覇者として、実店舗にゆさぶりをかけている事実はさておき、新古本市場のここ数年の賑わいを差して<ブックオフ革命>等と大書するには当たらない。既存古書店がIT産業に一斉に離陸した後、地域拡散型のフランチャイズ・システムが恰好の商材を抱き込んだのがブックオフなのだ。たかだか出版文化の盲点に陣取ったパラサイトモンスターに過ぎぬ。それも本来の読者層から隔絶した消費者サイドへのいい加減なネゴシエーションがあったとしか思われない。紙はいつかゴミになる。その「いつか」は確かにビジネスチャンスでもある。我国特有の再販委託制度によって、行き場のなくなった廃本の山と、不動産バブルの墓場のような郊外店舗をリンクさせ、75%の粗利益で味付けして、加盟店を募り、本部だけが巨万の富を得る錬金術。だが正念場はこれからである。無責任なマスコミの提灯記事がもう暫くは続くだろうが、いかに時代の趨勢とは言え、その素性は知れたもの、見当外れで場違いなリサイクル業者に過ぎない。
どう工夫を凝らそうとも、短兵急で底の浅いニュービジネスであることに変わりはない。かたや新刊書店と古書店のパートナーシップが織りなす魅力的な伝統的世界でもある。この活字文化の「近代」の箍を緩ませてまで、この業界に創造的破壊のメスを奮うことにはならないだろう。いつからか時代の舵取りとなった大手の、カテゴリーキラー然り、多店舗チェーン化然り、しっかりした車軸と両輪あってこその歴史の轍なのだ。いつ雨上がりの泥道に迷い込むかも知れぬ無定見なエピゴーネンには無縁と言うほかはない。全国にその数、三千名と言われるエリート読書人には胸の透く一冊、筋金入りの業界通ならではの好著である。
|