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日付:

2012/12/07

タイトル:
道徳の土なくして経済の花は咲かず
著者:

日下公人 

出版社:

祥伝社

書評:


 まっとうかどうかはさておき、道徳の低下などと言おうものなら、忽ち右よりな話にされてしまう。さりとて世に左翼系のカリスマ支配があるわけではない。ここぞというチャンス到来あっての利き腕である。簡単明瞭なことをわからなくしてしまうマスコミが相手なのだが、デマゴーグに踊らされて浮き足立つ観衆にしてみれば、目にも留まらぬ一発ということになろう。だからと言って、どのメディアもスーパーマン現わるなどと騒ぎたてたりはしない。ゴミを片付ければ蠅も一緒にいなくなるというだけの話だ。このアメリカ産・集団ヒステリーのインポート版には平和の合言葉で負け犬がシッポを振ってあつまる。おいでハッピー、おいでメリー、・・・。

 「共同体精神」は高度な文化である。その水位が下がったところでヒーロー待望論が生まれる。全体を率いる個人プレーとは何かに就いての議論はもはや意味をなさない。終戦当時、中国制圧が射程内にあったマッカーサーの背中に隠れ、今世紀初頭、千年遅れのブッシュの十字軍に眼くらまされるまで、我国は踏む一足ごとに自分の影を奪われていた。だが、「魂を抜かれたゾンビでない限り、肋骨をへし折られ叩きのめされてもきっと立ち上がる」――こんな矜持があってもよいのではないか。この憂国の人は矯正不能の薮診断を向こうに廻し、伝統精神への回帰を訴える。アメリカ建国二百年記念は二百回戦争記念。いやはや何ともグロテスクな話だが、「攻勢終末点」が「戦局転換点」となる軍事万能国家が七転び八起きの相貌を呈することを思えば、これこそお誂え向きのお手本ではないか。

 そこで問題、何故「有事ドル高国家」の神話が崩壊したのだろうか?
 その答、エンロン事件の「簿外債務」が地雷源となった軍産複合体の癒着構造の罅割れ。即ち、ブッシュは拝金主義者の手先に過ぎなかった、というお粗末。

 GDPの低下は経済の信用部分である道徳の地盤沈下による当然の帰結であって、今更、なにも驚くにあたらない。神武以来の皇国史観によれば我国の国体には世界に誇る竜骨があり、尾てい骨は微塵もないのだから。江戸時代の文化水準の高さは一極集中による周縁効果にも現われている。峠のお地蔵様が物々交換の取引の証人となるマーケットが日本以外の一体どこにあるだろう。小泉政権の参謀として百戦錬磨の要人を相手に外交手腕を発揮した著者には珠玉の名言が幾つもある。つい最近、暴走老人を自認しておきながら舵取りに回った河原乞食に爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいである。このボケ老人の火元不如意が原因の尖閣諸島問題でナーバスになっている日中関係の肩をもみほぐすのにぴったりのジョークもある。今度の尖閣諸島のお手つきを単なる出来心ととる<大人>はいないと思うが、胸元ぐさりの直言には当時の政府高官も思わず舌を巻いたそうな。

 「中国はいつまでも第二次大戦の悪口を言うが、それはその後一度も戦争をしていないからである。何度も新しい戦争をしていたら言われる筈がない。浮気は男の勲章、しかし、こうも黴だらけでは質草にもならない。叩いても埃が舞うだけだ」
  

 

 

 

 


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