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日付:

2010/11/10

タイトル:
E=mc二乗
著者:

デイヴィッド・ボダニス

出版社:

早川書房

書評:

 「光あれ」は創世記第一章の冒頭の句。この世の闇に少し遅れて(但し、動詞には一番乗りで)光はやって来た。物質は記憶の残骸だが死物化したわけではない。もう一度、息を吹き返す仮死状態と言うだけの話。それがE=mc二乗の正体である。科学は経験知のエッセンスだけでは前に進まない。未来の予測は神の指がふれていなければ到底不可能だ。思考実験の結果である方程式と従来のE=mv二乗の法則は似て非なるもの、おそらく詩と散文ほどの違いがあろう。この偶然の閃きはアインシュタインが提唱した相対性理論の付録として付け足されたものらしい。天才の頭脳は(=)記号を天国への門とした。本書はE=mc二乗に纏わる興味深いエピソードを集めて西欧精神史のロマンチックな夢を語るユニークな試みである。

 万有引力の罠に堕ちた光の天使・ルシュフールが地獄の裂け目から謎のビームを放ち続ける。隙間風が吹き抜ける薄暗い実験室で、啓示に打たれたアインシュタインはそんなアレゴリーを思い描いていたのかも知れない。のちに折に触れて<悪魔の石(ラジウム)>を片時も手放さなかったキューリー夫人が病的なまでに不機嫌であったことを述懐している。計測された物は手を加えることが出来、目的実現のための実効値が必ず引き出せる筈である。物の速さの上限に光を置き、宇宙大のスケールを当て、物質の壁を破る原子の運動を要約したE=mc二乗は、第二次世界大戦の胎動期に産み落とされた20世紀最大の怪物であった。


 

 

 


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