ジプシー女のダイスには天命120歳と出たらしい。紛れもなく強運の性(さが)である。この人に「画業一世紀」も夢ではない。矍鑠として気品溢れる90歳。一朝ことあれば行動原基としての初心に還る柔らかさもある。本書は画家三岸節子の画業70周年を記念して、1996年に出版された画文集である。
どのページにも気魄漲る熱いメッセージがこめられており、眼を瞠るばかりだが、根が真っ正直なだけに、これでは世間の風あたりもさぞ強かろうと、一抹の不安さえ抱く程だ。案の定、彼女は絵画と極く内輪の家族を除き、周囲からは完全に孤立していて、殆どが自己隔離とも言える生活であった。
ともあれ、このコンパクトな画文集には、そんな三岸節子の生涯のエッセンスが鏤められている。特に、欧州の僻地-ヴェロンの田舎町での精力的な制作活動には胸打たれるものがある。
生きた、描いた、愛した。-「画戦記」のエピグラムに相応しいこの力強い言葉は彼女が獲得したどの勲章にもまして輝かしい自分自身へのオマージュである。
読み終わると同時に男勝りという本来の意味が頭を掠め、女だてらに男以上という感慨深い用法を忘れてしまっていたことに気づく。ともあれ、画家として恋多き女としてラジカルな感受性の舞台に立ち、堂々と実人生を作品化した功績は大きい。近年とみに評価が高まるばかりだが、地元後援会の協力もあり、三岸節子美術館として零落した実家が蘇る等、-100歳の果報者として女占い師の掌に納まるかどうかは彼女次第だ。
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