性も生も死もうざったいママゴト遊びでしかなく、もし、人間の原質なんてものがあるとしたら、潰された蟷螂がひりだすハリガネムシの如きものであろう。そんな作者の不貞腐れた執拗な怒りが文体のネジを巻くとき、凄まじいレジスタンスの炎が燃え上がる。そのねじれと反発によるパワーがあまりにも身につまされ過ぎて思想になりきらぬところから、生活は庶民感情のどん底でぐらぐらとごった返すことにもなる。
どうせ長く続くわけはないさ。それしかない運命の皮肉な鉢合わせだもの。
平凡な高校教師とソープ嬢の腐れ縁には妥協というものがない。しかも、お互いが泰然自若としている。そんなところに、私はどうしょうもないダンディズムの顕現をみるのだが、実際はどうであろう。泥にまみれてキラキラ輝き出る矜持もなく、思い上がった社会的発言もない。時が経てば日の影で敢え無く萎んでしまう、殆ど偶発的な馴れ初めが影を落とした二人である。物語らしいものは何もなく、明らかに起承転結を欠いている。だが、作者の持ち味と言えば、曖昧模糊とした情緒的な世界観からはキッパリと縁を切った灰汁の強さと、イタリア映画のようなレアリズム一点張りの技巧の冴えだ。本編では括りきれぬ荒れた世間の胸算用、それこそヴァリエーションは星の数ほどある筈。長篇作家としての素質も充分窺えそうな、これは芥川賞受賞作品の白眉と言えそうである。
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