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日付:

2005/09/22

タイトル:
秘めやかな朝
著者:
山崎佳代子
出版社:
書肆山田
書評:

 

 楚々とした振舞いのどこに、闘志を潜ませているのだろう。NATO軍によるユーゴスラビア空爆下に敢て留まり、故国の春に背中を向けて、言葉の断片を夢中で繋ぎ合わせる詩人の姿があった。まるでオハジキ遊びに興じる無口な少女のようだ。

 断片こそ真実である。月の壁を這い回る煤の柱。引き裂かれた切り株のような朝。暗号の山を築いては遠のく戦車の轟音。焼け爛れた橋と黒い野原。残酷で痛々しい詩の行間には諦らめに徹した暗い川が流れる。不眠の岸に削り出され言葉は水晶の叫びとなって飛び散る。それは魂そのものと言ってよい。

  岸辺に

  誰も居ない

  流木は皮を削がれ

  木肌が夕陽色の雌牛に香った

  (情景はあなただけを欠いて)

 風が皺寄る熱い枝。重々しい暁闇の扉が外され、傷ついた魂は秘めやかな朝を迎える。それは地上の何処にも影を落とすことのない一日、待ったなしの抵抗詩だからこそこんなにも静かなのだ。

  薔薇とおまえのほかに

  何が要るだろう

  石は影を

  水面に震わせ

  僕らの思いをたたえ

  川はゆるやかに流れる

  (私は冬の薔薇)

 括弧で閉じられた最終行は掌の中の蝶のように、新しい詩の予感に羽を震わせている。

 

 

 

 

 


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