楚々とした振舞いのどこに、闘志を潜ませているのだろう。NATO軍によるユーゴスラビア空爆下に敢て留まり、故国の春に背中を向けて、言葉の断片を夢中で繋ぎ合わせる詩人の姿があった。まるでオハジキ遊びに興じる無口な少女のようだ。
断片こそ真実である。月の壁を這い回る煤の柱。引き裂かれた切り株のような朝。暗号の山を築いては遠のく戦車の轟音。焼け爛れた橋と黒い野原。残酷で痛々しい詩の行間には諦らめに徹した暗い川が流れる。不眠の岸に削り出され言葉は水晶の叫びとなって飛び散る。それは魂そのものと言ってよい。
岸辺に
誰も居ない
流木は皮を削がれ
木肌が夕陽色の雌牛に香った
(情景はあなただけを欠いて)
風が皺寄る熱い枝。重々しい暁闇の扉が外され、傷ついた魂は秘めやかな朝を迎える。それは地上の何処にも影を落とすことのない一日、待ったなしの抵抗詩だからこそこんなにも静かなのだ。
薔薇とおまえのほかに
何が要るだろう
石は影を
水面に震わせ
僕らの思いをたたえ
川はゆるやかに流れる
(私は冬の薔薇)
括弧で閉じられた最終行は掌の中の蝶のように、新しい詩の予感に羽を震わせている。
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