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に日付:

2005/09/14

タイトル:
イエス・キリスト 封印の聖書
著者:
サンダー・シング (林 陽 編訳)
出版社:
徳間書店
書評:

 

 これは神秘的な体験によってキリスト教に改宗、父の怒りに触れ、親族に見離されながらも、ひたすら母の期待に応えようと、サードゥとして伝道の旅に出た運命の人の物語。一神教の母体である西欧文明社会に失望してヒマラヤ奥地に舞い戻り、荒行に入る。数々の奇蹟によって20世紀のキリストと謳われながら、忽然と消息を絶った、サンダー・シングの謎に満ちた生涯の記録である。

 彼は「希望」を行動原理として、魂の在り方に就いて厳しい態度で臨んだ。彼の生きた20世紀は戦争の時代でもあった。ガンジーの抵抗、タゴールの夢とともにシングの祈りは、世界平和の大きな翼をひろげていた筈である。では、権威あるどの聖職者からも一線を隔したシングにとっての救いとは?

 通常、私たちは物欲を満たすことで平安を得る。その満足の度合が幸福のバロメーターとなる。しかし、自然界の物は有限で、人の欲望は無限である。だから戦争とは必然的に発生する、物の奪い合いにほかならない。この欲望が全体意志となって見えざる神の手が働く、こうして得られた安定が唯物論による平和である。

 このような平和では常に犠牲を伴わざるを得ず、戦争というリスクに耐えてこそ平和、という奇妙な結論にもなり兼ねない。いつクラッシュに襲われてもおかしくはない終末観の中で、為政者だけがほくそ笑む。

 しかし、本当はこんな風に神は手を差し伸べたりはしない。肉体の浄化こそ清浄な魂を生む。神とともにある平安は厳しい霊の戦いなしには決して得られない。この世の争いは児戯に等しいものでしかないのだ。子ども、老人、強盗、娼婦、そればかりではない、野獣や猛禽の類まで、彼の霊の力に撃たれてひれ伏したと言う。

 彼の手になる「シ−クレット・ドクトリン」は聖書一冊から学んだものであり、諸々の神学の原典と呼ぶに相応しい。キリストの体現者である彼はこうも言っている。

 キリストのために死ぬことはたやすいが、

 キリストのために生きることは難しい。

  彼は<権威はあるが死んだ聖職者>としてではなく、自己の信念に従う求道者として、幾つあっても足りない命を生きた。

 

 

 


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