男の窓からは
恒久的な夕景が手を振る
手を振り返す程の
純粋さは
もはや
女にはない
繰り返し岸壁に打ち付けられながら、日常の残滓となって堆積する言葉たち。それらを手懐けようと、汚泥塗れの「今日只今」を抱え込む。そのしんどさ、男女の枠組みなんて脆弱なものははなからぐらつきどうしなのだ。夢見ることが悔いることでしかない複雑な日々。彼女にとって詩の世界は<始まりの集合>にほかならない。果たして生きることに何程の意味があろう。−だから「カナシヤル」?断念と跳梁の虹の橋が擦り合わされて、乾いた情念の火が落ちる。またしても惨事のあとのもやもや、または灰皿の上のもやもや・・・。
じんるい・あい・にんげん・おんな etc. なにやかやと詩のミキサーから搾り出され、影の島を取り囲む。かと思うと今度は、不器用さゆえにいつまでたっても着地出来ないフライイング・オブジェクト。彼女は実人生に対してこんな風に叫ぶしかなかった。「じんるいはみなひっこしをしてください」
だからと言って、ちまちまと異議申し立てをするには及ぶまい。「わたしには/世界が足りないと/示された午後/錠剤が友達でした」・・・持前の思い切りのよさで外界とのありようを転覆させるとき、彼女は紛れもなく時代の走者の一人であった。彼女のユニークな点は、どの詩の一行も最終フレーズであること。絶えず記憶の底に蟠るアポカリプス、それらは肩を叩かれた弾みでしか時間の鞘におさまることはない。その残響がどうあれ、彼女は生きるために救い難く退屈な事実から身を切り離す。やさしさがそっと手を貸すだけで事実は重みを増すばかりなのだから・・・。
男と女は手をつないで
眠る
男は
目撃した断片を
女に挿入する
拒絶するはずもない
鳴かない鳥を
誰が殺せよう?
「名も無き鳥」
<某氏ありき>と風に書かれ、変に思いつめた風景の中で、いつもながら彼女は見知らない男の川に半分浸かっている。
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