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日付:

2005/09/21

タイトル:
高野聖
著者:
泉 鏡花
出版社:
左久良書房
書評:

 

 一級のホラー小説には怪奇と幻妖の精妙なアマルガムがある。グロテスクが美となるのは作者の天性の資質によるところ大である。この作品は我国が生んだホラー界の貴公子、泉鏡花の代表作。

 主人公を悩ます豊満な肢体の熟女は、深山幽谷の主、時には村人を取って喰う恐ろしい大魔神であった。世の男たちは分相応の業によって畜類に変身させられる。ほんの一足違いで神隠しにあった行商人に気を奪われ、道に迷い込んだ主人公は、とある山中の廃屋で、怪しげな女と童子と繋がれた牛の奇妙な交情を目の当たりにする。この徒ならぬ風景が伏線となって、やがて怪物が正体をあらわすのだが、作者はこの山場で実にみごとな筆の冴えを見せている。胡坐をかき、布袋腹を波打たせながら、好物の鯉を平らげるシーンでは、逆流のような情感の転調によって、思わず固唾を呑むこととなる。しかし、そこに到るまでの妖美な世界は些かも損なわれてはいない。

 氏素性の定かでない旅の僧の、魔界脱出の一部始終が一宿一飯の夜伽の中身である。スリリングなストーリーの展開から、デリケートな細部の描写に到るまで、趣向を凝らした小説の結構自体は珍しくはないのだが、鏡花ならではの完成度の高い作品となった。

 

 

 

 


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