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日付:

 

2009/7/14

 

タイトル:
空疎な小皇帝
著者:

斎藤貴男

出版社:

筑摩書房

書評:

 

 公人なら命取りになりかねないのが言わずもがなの一言。にも拘らず、「言いたい放題は物書きの癖でね」等と公言して憚らない。それじゃあ先生、場違いどころか気違いでしょうが。用心深い著者は権力行使よりも同調圧力の方が怖い、と前置きしてから、裸の王様の支配構造にメスを入れる。国政をリタイアしたからか、お山の大将が余程性に合うのか、相変わらずオフレコ続きの石原慎太郎都知事である。これみよがしの職権濫用に拍車が懸かる一方だ。敵を知り己を知る者は百戦危うからず。まだまだ滅多なことでは人気は衰えまい。そういえばボス猿は毛が三本足りない猿だった。

 「徳・献身・犠牲の精神を欠いたデモクラシーは有害無益」−性急な近代化による西欧合理主義の顛末はルナンの警告通りとなった。至るところに終末論の火の手が上がり、遅ればせながら我国も災厄に見舞われた。性的暴力を賛美し、集団レイプを想像逞しく活写して、戦後のどさくさ紛れにパワー全開したのが石原文学である。この出自不明の筋肉群にヨハネの剛毛を探しても無駄であろう。むしろ彼の世界はアデランスの植毛技術でも失地回復が見込めない3%の空白地帯ではないのか。反面教師の正体すら見抜けないデモクラシーのボンクラ鏡には思わずゾッとする。しかもこのお調子者には「法華経を生きる」などという偽善的なエッセーもある。人を貶め、深手を負わせて置きながら、自分はかすり傷一つ負わずに逃げおおせる、そんな狡賢い振舞いには菩薩行の片鱗もない。

 「小皇帝」は一人っ子政策が社会問題化した中国の流言飛語の類、大の中国人嫌いの知事にはぴったりの尊称である。「空疎な」という修飾語まで付いた皮肉な比喩には著者の満身の怒りがこめられている。この国民的な英雄の暴言居士ぶりはお茶の間に始まり、街頭デモで槍玉に上がった。困ったことに馬鹿馬鹿しすぎて裁判にもならない。ギャーギャー騒ぐな、この蛙共!と片端からいびられるのがせいぜいだ。まるで鶴の王様である。大衆文学者のデマゴーグくらいでは国はびくともしないだろうが、一橋大出身の実務家にしては胡散臭い経歴の持ち主、へんなプライドで取り付く島もない反面、内政干渉は少々度が過ぎる。しかも喧嘩好きでお祭り騒ぎのキャラ立ちをいいことに向うところ敵なし(敵だらけ?)である。要するに態の良い日本列島乗っ取りの確信犯、危険この上ないアンチクリスト的人物なのだ。オーム真理教の麻原教祖と昵懇だったとの噂もあるが、気の毒なのはグルの方で、物騒な当て馬か露払いがいいところであろう。指一本触れずに人を殺せる奴はほかにいる。試して合点! 「太陽の季節」が嘱望されるのは暗黒時代の到来によってである。 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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