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日付:

2006/11/21

タイトル:
見えない世界を超えて
著者:

岸根卓郎

出版社:

サンマーク出版

書評:

 
  我国に於ける社会学の立ち遅れは如何ともし難い。だが、現時点での学際的な研究の地球規模の胡散臭さを思えば、恥じるに及ばない。寧ろ、文明を文化の名で価値あらしめる、いわば先覚者としての釈迦の掌に、すっぽりと納まってしまうのが日本である。光は東方より、の機会到来とばかりに、大判振舞いに出たのが本書。さながら思想の愉快犯の如き印象を受ける。

  この本の著者にとって誠実さとは、まともな間抜け面が時間稼ぎに要する能書きの全て。大風呂敷の中身が見たとおりのガラクタでも、この一変革者の眼には、文化システムのミームと映るかも知れない。福沢諭吉の「学問のススメ」と言えば自己啓発の古典的名著。しかも彼の創設した慶応義塾は文明開化の幻想の所産などではなかった。れっきとした歴史的な学問の聖地。打たれるべくして打たれた杭は何処にも悔いを残したりはしない。その思い切りの良さだけでも、身勝手な「逍遥楼」とは異なる。 しかも、網羅することで核心に至る前者の学際的な試みに首を突っ込んでも、この学園祭のノリでは、肝心の足元がふらつくだけだ。

 さて、ざっと見には中々の講釈だが、思わぬ処で馬脚を現す。東洋古代の直覚知・「万類共尊の思想」の理論的な正しさが、現代科学で証明された、と著者は言う。そんな莫迦な。その証明欲しさにウロウロしているのが現状の科学、おまけに直覚知は理論なんかではない。(著者自身、そう言っていた筈だ)。それに、世界的な危機に直面した環境破壊が、東西文明の交代で、どう回避されると言うのだろう。個・形成の系統的人類正史はかれこれ5000年。今世紀初頭は800年サイクルの7回目の覇権移行期にあたるそうだが、根源のパワーを「宇宙の基本リズム」が東西に振分けたりするだろうか。風船割りの天才が「エントロピー増大の法則」を無効にするなんて誰が言った? 喩としても不愉快だし、曲解も甚だしかろう。使われている語彙が不正確なのも気になるが、頻出する非科学的用語・「純粋エネルギー」は、その最たるもの。論旨の摩り替えやら陳腐化した文脈やらで、輪廻転生も終末論もいまひとつピンと来ない。

  但し、孫引きが光っている。花咲爺の御伽噺を連想させる「ハイポニカ農法」。量子論学者カプラの学説の泣きどころ。位相数学(トポロジー)を援軍に迎えた前衛科学。桂離宮や邦楽の「ファジーな調和美」。右脳と左脳に回路を持つ日本人特有の脳の働き。「十二単の融合文明」。「素粒子は意識の海のプランクトン」。等々の紹介はそれなりに頷ける。

  申し分のない天の配剤も、怪しげなアウラに包まれるや「気」を奪われてしまう。もしかして著者の脳は食官型?ちなみに本書による タイプの分類はこんな具合である。右脳型人間には五官型(反射神経)と直覚型(洞察力)があり、左脳型人間には速考型(早飲み込み)と深考型(考えすぎ)がある。

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