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日付:

 

2007/02/10

タイトル:
ナショナリズムという迷宮
著者:

佐藤 優 ・魚住 昭

出版社:

朝日新聞社

書評:

 

  「お黙りラスプーチン!」 永田町の女怪が一鞭呉れて以来、伏魔殿では睡魔ばかりが幅を効かせる。追われた佐藤氏は黒い勲章がよく似合う。ロシア大使館駐在員時代、現地での評判が裏目に出て、どさまわりの田舎芝居よろしく、お縄を頂戴する羽目に。結果は見たとおりの、大物議員がターゲットの国策捜査であった。この覚えめでたい勲章を胸に、今や、向うところ敵なしの佐藤氏だが、漸く本書をもって<ラスプーチン・シリーズ>も佳境に入る。う〜む、出る釘は打たれると言うが、成程、男の嫉妬には魔法がかかっている。

 事実は鉱脈のように暗く、出水のように逃れやすい。保釈後は国益を損なわぬよう、権力の屋台骨にやんわりと手を掛ける。512日の拘留期間中、なんと250冊、ぶ厚い学術書を含めて読破した。天晴れ、ヘーゲル流・地球丸かじりの胸の透く怪童ぶりである。独房すら国政の眼目となった感がある。

  政党政治の無定見・無思想、こんなものまでいちいち俎板に乗せるようではメディアの底も知れたもの。役立たずのイデオロギーに後髪を引かれて、「思想とは何ぞや」の堂々巡り。相も変らぬ観念のもぐら叩きだ。これら思想の亜種を「対抗思想」とラベリング、一斉に棚上げすべし。それにしても人は何故、なし崩しに思想それ自身なのか?−レーゾン・デタが本領の佐藤氏よ。切符を切ってプラットホームに立つ、コンビニで弁当を買う、コートの袖に腕を通したあと鼻を噛む、等々。肩の凝るマニフェストは要らない。尤もらしい世辞も要らない。正邪善悪は必ずしも国是とはならない。となれば、男の花道には裸一貫こそ似つかわしい。盲点を上手く結び合わせるのが政治手腕だ。「理性即現実」足らんとすれば、生きながら火に炙られる覚悟がなければなるまい。−脱皮する蛇のように。

  聞き手はジャーナリストの魚住昭氏。肝胆合い照らす飲み仲間だが、仕事上は良きライバル。サシで夜明かしも珍しくはない。国家・民族・宗教の奥深い迷路に分け入り、草草の病根を抉り出す。バイブルの中の言葉は謎解きゲームの合鍵となってご両人の手の中にある。

  そもそもの誤りは神と人の契約を人間関係に置き換えたこと。それが<原罪>だが、信仰の母胎でもある。しかるに、ナショナリズムの碾き臼で<天国の種>を粉々に磨り潰す、戦争と言う名の薮睨みの暴君。この自業自得の地獄の空模様、どうか夢であって欲しい−と、思わず左の頬も向けたくなるのだが、誰か、思い切り抓っては呉れまいか。
  

 

 

 


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