デカルトの「コギト・エルゴ・スム」は「私は哲学者です」と、単に自己紹介しただけではないのか、哲学者もいろいろある中で、いわばドッ白けムードの元祖なわけなのだが、何故か、この版で捺した自己申告制、長持ちがする。哲学とは哲学すること、哲学等というものはない、ここが一筋縄ではいかないところだが、著者はすんなり「哲学屋」を自称して無用な風当たりを避ける。大袈裟な遺産に辟易して近代的自我の底割れにハッと我に返る時、哲学が始まる。思う思はないは鴉の勝手、普段見慣れた風景が或る日突然「謎」につつまれる、そんな驚きに向き合うのでない限り、哲学なんて一文の値打ちもない。膨大な文献の渉猟にも拘らず、一向に哲学書らしからぬ本書、知のハンターの軽快なフットワークは時代の感性であろう。牽強付会は微塵も感じられない。情報社会とクオリアの今日的なテーマも上質な思弁でうまくこなれている。本書は新しいタイプの哲学入門書である。
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