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日付:

2004.11.15

タイトル:
オーランドー
著者:
ヴァージニア・ウルフ
出版社:
国書刊行会
書評:

 

 同じ人間−何も変わらない、性が変わっただけ。お堅い筆先で知られる知性派・女流文学者が、思わず童心に還って一気に書き上げた傑作ファンタジー。女(=男)主人公の荒唐無稽な冒険譚が、わくわくさせた最初の読者も恐らく作者自身であったろう。

 クロノスの怪物神が性の歯車を狂わせたため、前後左右の感覚が麻痺した主人公は無限大の空間を我物顔に闊歩する。固有の人格を解体し、意識の流れによつて人間原基の壮大な坩堝を掻き回し、無節操なメガロポリスを、文明の擬人法的な代替表現とした実験小説家が、ほっと息抜きをしただろう、新天地創造の物語だ。同じ手法も理屈抜きならこうなる筈の好個の一篇。

 歴史上のエピソードであるかのごとく、信憑性に拘りながら、同時にそれをぶち壊すという自在なトリミングは、まるで三面六臂の女の肖像画を描くピカソのキュービズムの手法だ。

 革命前夜のトルコ、有能で自己顕示欲のある現地駐在員が、蜂起した民衆から辛うじて難を逃れた夜、ジプシーの馬車に揺られて性転換してしまったことから、物語は急転直下に展開する。

 アンドロギュヌス神話の現代版。プラトンがお腹で切り離した男女を、背中で切り離せば、こんな具合のドタバタ劇となる。求心力は悲劇を、遠心力は喜劇を、要は包丁の入れ方ひとつと言うお粗末。

 

 

 

 


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