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日付:

2004.9.20

タイトル:
ピアノ・檸檬/名作読本1
著者:

川島隆太(監修)

出版社:
くもん出版
書評:

 人生はボードレールの詩の一行にも及ばない。−元々ペダンチックな韜晦癖のあった芥川龍之介である。が、この箴言、「悪の華」のどの一行とも言ってはいない。彼自身の生活信条が偶々この世紀末の詩人を巻き添えにしただけであろう。その言葉通りに彼は自殺する。晩年、ぼんやりとした不安に付き纏われていた彼は、耽美主義という蜘蛛の糸から人生とエピゴーネンを切り離す。この思い切りのよさとカリスマ性は多くのファンを戸惑わせた。

 文学と死が隣合せの侭、早世したもう一人の作家が梶井基次郎である。病魔の触手が彼の肉体から物悲しい音色を引き出す。短編の書き手としては当代随一で、芥川と比べてなんら遜色がない。人口臭のない天性の資質に描き出された鬼気迫る風景には、寧ろ、芥川をも凌ぐ美しさがある。

 表題作・二篇に各二篇が添えられ、新美南吉の微笑ましい童話が加わったこの名作読本、厳選されたテキストは逐一ルビが打たれ、しかも大きな活字で組まれている。ルーペに縋る中高年や活字離れの若年層にとっては頼もしい限りだ。

 言語の質の低下は国の命運を危うくする。欧化の波に揉まれて、日本語の良さが忘れられようとしている今日、本書のような企画は出版界にもっとあっても良い。  

 

 

 


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