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日付:

 

2009/5/2

タイトル:
ロビイストからの警告
著者:

岸田治子

出版社:

集英社

書評:

 

 「ロビイスト」―最近、よく耳にする言葉である。世界を読み解くキーワードと言われても危機感を募らせるわけではない。いまひとつ実感が伴わないのは、平和ボケと長すぎた鎖国による国情もあろう。だが、この人たちのために海の向こうでは大変なことになっているらしい。

 ヘビースモーカーのシンプソン米大統領は夫人に隠れてパイプを燻らせながらロビーで一休みする習慣があった。それを知って待ち構えていた市民が彼を取り巻き、諸々の陳情に及んだと言う。これがネイミングの由来である。今日、そんな微笑ましいエピソードからは想像も出来ないダーティなイメージしかないのは、特定利益集団の既得権益を最優先する政策立案者の代名詞となったからだ。議会政治は彼らの代行業に過ぎず、その権限たるや我国の遺族会や代表的な新興宗教の圧力どころの話ではない。現代のアメリカはホワイトハウスが動かしていると思うのは大間違いだ。かたやハト派のリベラルな民主党、かたやタカ派のコンサバティブな共和党、この二大政党を掌に乗せて自在に操る者がいる。ちなみにブッシュ前大統領は後者に属し、かなり強かなネオコンの反改革路線上にあった。十字軍を気負うキリスト教原理主義者だからこそ、宿敵イスラム教徒とは真っ向からぶつかり合うことになったのだろう。著者は9.11事件を宣戦布告のための自作自演の狂言芝居ではないかと疑う論者の一人。だが、今やグローバリズムの欺瞞が自国の経済を疲弊させ、政府の中枢はテロリズムの暗礁に乗り上げて身動きもならない。オバマ政権を休止符ととる有力な説さえある。

 確かにマスコミの報道はウソが多い。人間のエゴの聖域は奥が深く、念入りにカムフラージュされていて、おいそれと真相は掴めない。大国にパラサイトし地球規模で政治を動かす黒いロビイストであれば尚更である。名門の生まれで将来を嘱望されていた一日本人女性が家族の軋轢を逃れて単身渡米し、めきめきと頭角を現したのが、危険な誘惑に満ち満ちた、このロビイストの世界である。水面下の情報をリークして何度も殺されそうになったこともあるらしい。日本男児ならぬ大和なでしこの「志」は中々絵を描くようにはいかないが、彼女自身が設立者となったロビイスト養成機関が我国の将来に希望の光を投げかけることを期待したい。

 

 

 


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