「ローマ史」は一日にして成らず。古代の夢を文献考証学的に読み解こうとイタリア本土に滞在、ローマ学を自らのライフワークとした塩野七生氏である。もし、通説に従うだけなら、彼女の目論見は地に落ち、一大帝国の全版図は一瞬にして霞んでしまうだろう。幸い、ヨーロッパ文化圏にとって日本は極東の島国、なんら先入観になるような知識も体験も持ち合わせていなかった。直面した現実は現実的な問題解決の方法以外、何ものをも促すことはない。
平和は所詮、利己的なものだから、いつ戦争になっても可笑しくはなかろう。従って、何故、ローマは滅びたか、ではなく、何故滅びなかったか、を問うべきである。<パンとサーカス>の流言は単なる詩的レトリック、あの輝かしいパクスロマーナは個人の思量を遥かに凌駕した政治的なものである。これら、多くの通説を覆しかねない発見と推理によって、歴史の真実は呱呱の声を揚げ、ローマ史観に新しい光が当てられる。膨大なデータを具体的に分析し論証しながら、種々のエピソードをまじえ、誰にも親しみやすく語りかけるローマの物語、本書はそのダイジェスト版である。
当時のローマ人にとってギリシアの神々は戦利品としてのレプリカではない。彼らの夢が等身大となった勝利者の実像である。現代と比べたら、傑出した人物はごまんとあったろう。著者が少女時代に胸躍らせていた古代ローマの英雄列伝。今、タイムカプセルの中から本物のヒーローが次々と現れる。巻末付録の「古代ローマ指導者通信簿」がそれだが、我国の政治家を同じ基準で採点したら、10点満点と勘違いされそうである。カエサル100点、小泉7点と言う具合になろうから。
日本からローマはよく見える。ローマから日本は見えない。
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