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日付:

 

2006/11/28

タイトル:
世紀末画廊
著者:

澁澤龍彦

出版社:

河出書房新社

書評:

 

 澁澤龍彦は哲学的な条理に裏付けられた平易な解説文で知られた評論家である。古今東西の幻想美術に関しての造詣も深く、その肩の凝らないユニークな語り口は、自由人の面目躍如と言った風情がある。この晩年のエッセイを主に編集された文庫版「世紀末画廊」には、シュルレアリズムやマニエリスムに就いての論考が添えられていて、澁澤ワールドの登場人物もほぼ出揃った感があり興趣は尽きない。日本画の装飾主義に於けるマニエリスム的な解釈は、それこそ彼一流のお家芸でもあり、何人の追従も許さないのだが、本書の見せ場はなんと言っても作家と画家の幾組かの魅惑的なコラボレーションにあろう。オクターブ・ミルボーとアリ・ルナンを同じ俎板に乗せて論じるなど、彼ならではのスリリングな離れ業もやってのける。

 東に余裕綽々の異端の王の好漢ぶりがあれば、西に天衣無縫の論客・稲垣足穂の思考のダンディズムがある。彼は、ピカソを袖にして、ピカビアを舞台の中心に据えることで、セザンヌ以後の美術史を塗り替えようと試みた。抽象絵画からミニマルアートへ、ミニマルアートからアクションペインティングへ、<造形の神>が絵画の外へ足を踏み外してしまったことを思えば、寧ろ、<幻想の女神>の寵愛を一身に受けた彼らだからこそ、優れて精神的な闘士足りえたのかも知れない。兎角、博覧強記の袋小路ともなり兼ねない奇想の系譜だが、傍若無人のアバンギャルドの空騒ぎのあと、図らずも特等席が一対用意されていたことにもなる。

 足穂と共にエロスの領土を二分し、端倪擱くあたわざるこのフランス文学者は稀代のサド学者でもあった。その徹底して厳密な鑑賞眼の前には、さすがの三島由紀夫も兜を脱がざるを得なかったようである。

 

 

 

 


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