トップページ
 古本ショッピング
 書評
 通信販売法に基づく表記
 お問合せ


 

 


日付:

 

2008/3/28

タイトル:
戦争のリアル
著者:

押井守/岡部いさく

出版社:

エンターブレイン

書評:

 

 「戦争には巧拙がある」−恋に喩えるなら、失恋して文学するよりも、後悔は伴うが結婚したほうがはるかにまし、となる。これが即ち「戦争のリアル」、−表題通りだ。大の戦争好き(?)の映画監督が、軍事評論家を向こうに廻し、百戦錬磨の武将よろしく捲し立てるサバイバル・トーク。有事ならベクトルは逆だが、専門家の1行にざっと20〜30行のマニアックな長広舌が尾鰭をつける。戦争とは何か?では無論ない。クラウゼヴィッツの「戦争論」は負けて悔しい花一匁だそうである。この戦争文化の古典は一先ず棚に上げ、「アニメオタク」即「戦争オタク」らしく、20世紀の近代戦を総なめにして、目下の戦争状態にのめりこみ言いたい放題。所謂、戦後責任は全て現実逃避の抽象論に過ぎないとして、そのメカニズムを徹底分析、何故、我国は大敗したのかで討論は始まる。

 「戦争の是非」は現実的な条件次第だから、それ自体としては愚問である。当時、世界的な軍事レベルを誇った信長でさえ、自足した国内事情により海外派兵はない。この意味で戦争は必要悪と言える。だが、戦後60年の我国は国力が一向に軍事力とならない。能天気でナーバスな国民感情は、第二次大戦の敗因をタブー視することでトラウマは渦を巻き、それこそアニメの世界では凄いことになっているらしい。政治的な偏見ぬきで、時事問題にも抵触せず、バーチャルな体験で世相の隙間を埋めながら、盲点を連結して本筋に近づこうと全神経を傾注、論点は戦争から疎外された我国の異常事態に移行する。徳川300年の歴史の功罪が国防精神の鈍磨であるとの結論さえ出た。

 「戦争責任」は戦勝国にしかない。敗者の安逸で納まるところに納まったとしても何の不思議もなかろう。昔ながらの判官贔屓、非業の死を遂げた義経が国民的なアイドルであってみれば、敗戦の慰撫など朝飯前のことであろう。もう一つ、必ずしも英雄などなくともよいのが戦争の現実なのだが、自己完結的な崇拝物に特化される心的傾向から察するに、我国は戦争のしくみから限りなく遠い。全六章からなる本書は、第一章に総論、以下が各論となっていて、総論だけでも充分読み応えがあるのに、ホンネで向き合う戦争は隅々まで味わいがある。おやと思う本には時たま出会うが、こんなに面白い本は滅多にない。戦争のリアルは戦場にしかないと決めてかかるのは早計であった。



 

 

 


全目録 海外文学 日本文学 芸術・デザイン 宗教・哲学・科学 思想・社会・歴史 政治・経済・法律 趣味・教養・娯楽 文庫・新書 リフォーム本 その他