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日付:

2005/08/18

タイトル:
史録 日本再軍備
著者:
秦 郁彦
出版社:
文藝春秋
書評:

 

 名は体を表わす。スルメは烏賊の成れの果てだが、あたりめと言えば酒の肴だ。護国の精神もいろいろあるが、天皇の格下げで骨抜きにされ、死んだ振りでは国とは呼べまい。噛んでも歯に挟まるだけで飲み下せない憲法第九条、−談論風発もいいが、針の筵ならそうもゆくまい。成文法も場合によってはナマものである。狂信家でない以上、毒に中てられる。そもそも武装解除は非常事態でしかなく、再軍備は終戦とともに始まる。連行されては事は厄介だが、自縄自縛ならなんとかなる筈。−まあ、ざっとこんな風にまとまるだろう。国防庁で難しい職務に就いたこともある、これが著者のスタンス。

 第一次世界大戦の戦後処理はナチスの台頭を許してしまった。その反省を踏まえてのマッカーサー・プラン。前代未聞だが抜け道はあった。自画自賛の司令官に時の総理大臣が合いの手を入れたと言う。「100年後は予言者ですな。」 確かに後年、このタダ乗りは割高となった感がある。麻酔が効きすぎては名医と言えまい。

 歴史上のとんでもない間違いをひとつ挙げるとしたら、優生学を教会に持ち込み、ナチスの略奪品ですっかり肥え太ったヴァチカンだろう。反共理念で意気投合したのも頷ける。

 武力による解決は永久に放棄する。聖書ですら肩身が狭くなるこのユートピア精神。戦争責任を担保にしての綱領だが、権力追従に目隠しをされて、イナバの白兎のようにならなければ良いが。絶対平和?−その内実は兎も角、我国の固有名詞になろうとしている。

 戦後の或る時期、軍の手になる焚書以外は全部開示されることとなった。それら膨大な資料を、たっぷり時間をかけて自在に編み直したのがこの史録である。無論、貴重なだけではない。昭和の鉱脈から堀り起こされ覇気のある文体で一層輝きを増した原石。まず何を措いても、近頃のはねあがり文士共に拝ませなくてはならない。

 

 

 

 

 


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