トップページ
 古本ショッピング
 書評
 通信販売法に基づく表記
 お問合せ


 

 


日付:

 

2008/2/20

タイトル:
死想の血統
著者:

樋口ヒロユキ

出版社:

冬弓社

書評:

 

  「ゴシック・ロリータの系譜学」と副題にあるとおり、本書はゴシック・ロマンの延長思考とロリコン・パーティの潜入リポートからなる今日的な悪魔学の研究成果である。「ゴスロリ」とは些か奇異な略称だが、ハンス・ベルメールの少女に体現された残酷美が、いつの間にやら怪奇趣味とロリコンのないまぜになった合言葉としてフリークたちに定着したもの。確かに、バブル絶頂期にかけての性の氾濫は眼にあまるものがあり、同世代の若者たちはマス・メディアの篩にかけられ、水と油のような、オタク系と親父ギャルに二極分化した。片やバーチャルな逃避行、片や拝金主義。どちらにせよ、わけのわからぬ風俗のコラージュを行動原理とした時代感覚に変わりはない。問題はマニアックな妄想と凶悪な犯罪がすれ違いざま致命的な誤解を生んだことだ。もし著者自身が「ゴスロリ」の純血種でなく、犯罪予備軍の汚名を着せられた日陰者の擁護にあたらなければ、この仲間たちはスケープゴートとして永久に葬られたことだろう。その内実たるやご多聞に洩れず、徹頭徹尾「事実は小説よりも奇なり」を生地でゆく生臭さである。本書の成り立ちには些かの誇張も衒いのあともみられない。ざっと「ゴシック物語」のおさらいを済ませたあとは、恐らく文学的な焼き直しとは無縁の複雑怪奇なママゴト遊びの現場報告でしかない。もしかしたら一読、リラダンやマラルメの衣鉢を継いだ書斎派は毒気にあてられ、パイプの息の根も止まることだろう。残念ながら時代の厚い壁は片側の光を一切感じさせない。もっとも私個人としては、いっそのこと澁澤龍彦の部屋に退散して閉篭り、鍵をかけてしまいたいくらいなのだが。

 なにはともあれ、どんな夢を託されようとも、人形は人形、人間の本性を限りなく欺くことしか知らないレプリカの世界だ。それにしても、俺・彼女の間柄で取沙汰されるイベントの手際の良さはどうであろう。四谷シモンとその師匠のパフォーマンスでは断じてこうはならない。人形に就いての正統な観念が、たかだか人形の精妙な部位に拘るだけなら、部分と全体の眼眩ましが、単なる茶々で終わろうにも文句の付けようがない。しかしながら、本書の持つ神通力もまた抗し難く、著者の人形作家への熱いまなざしからは「いま人形が新しい」とのメッセージが否応もなく伝わってくる。 




 
  

 

 

 


全目録 海外文学 日本文学 芸術・デザイン 宗教・哲学・科学 思想・社会・歴史 政治・経済・法律 趣味・教養・娯楽 文庫・新書 リフォーム本 その他