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日付:

 

2009/1/8

タイトル:
それ自身のインクで書かれた街
著者:

スチュアート・ダイベック/柴田元幸(訳)

出版社:

白水社

書評:

 

 原題「Street in Their Own Ink」がうまく訳しおおせたかどうか心もとない、とあとがきにある。―むしろ「街の墨煮」ではなかったか、と。翻訳家であれば飯の種ともなる詩の泣き所に触れて、レトリックがそのまま意味の抽斗とならないことを暗に仄めかしている。又、この詩集一巻が異言語間の凄まじい格闘技であることも。

 この詩人に関してはワーカホリックらしき記述がみられるだけだから、私自身始めてなこともあり、その出自も詩壇での評価も現時点ではわからない。だが、どれでもよい、例えば「眠る者たち」や「自伝」と題された詩篇が、今時、ランボー的な書割で一定の高みに達していることを思うにつけ、妙に感じ入るばかりかあらぬ期待すら抱いてしまうのだ。
 
  タール紙の屋根の
  ぽたぽた黒い乳を垂らす乳房が居並ぶ

    下
  盗んだジャックナイフで 男の子が
  春から冬を引き剥がす。
  僕はそういうふうにはじめたいと思う、
  泥の匂いと
  雨のなかに溶けていくつららとともに。
  通りすがりの未亡人たちは
  買物袋を両手に提げた いびつな姿で
  神秘な悲しみの首根っこをつかんで
  九日祈祷(ノヴィーナ)へ引きずっていく。

            「自伝 T」  
  

 近頃、こんなに面白い詩はお目にかかったことがない。冗漫だがスリリング、しかも緊迫状態でリラックスしている。ランボーが「イリュミナシオン」で既に実験済みのことだが、虫や花々と同じ視線で物を見、悲愴な決意を固めて、旅篭屋のボロボロの看板となったように、アポカリプスの一杯詰まった容器を瓶ごと床に叩きつければ、ひとはどんな珍妙なものにもなれるものらしい。

 

 

 


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