「詩の中の詩」−そんな矜持がみえみえの表題だが、気分としては詩小説?本命の小説が出来上がるまで、桝目の外に待機させられていただろう感性のあれこれを思えば、ピリッと塩味のあるこの甘さ、やはり油断がならない。おセンチな少女時代に戻るというのは反語だろう。
詩は行間に木霊を競い合う山脈。行分け散文のキライはあれ、理に落ちる危うさは微塵もない。泥臭さを肥やしとした高見順・大先輩の手練手管から身をかわし、彼女はシャープな切り口に溢れ出る。勿論、磨けば光る原石としてなら、その資格は充分だ。
「ちび」と言う作品は、そんな彼女の原風景。
ちびだった
なまいきだった
めだけはいつもあけていて
なにもかもみてやる
と
おもっていた
遠近法をマスターしてからは、それこそ大人の貪欲さで、小説の網には架からないモチーフですら変幻自在、しかも手掴みのままだ。彼女にとって詩は散文の異域にあって、実人生の美味しい余り物である。
なにもない場所に
言葉がうまれる瞬間を
二人でもくげきしたね
あれは
夜あけのバスにのって遠い
町にいくときの
つめたくうす青い空気くらい
まぎれもない
たんじゅんにただしい
できごとだったね
「なにもない場所に」
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