トップページ
 古本ショッピング
 書評
 通信販売法に基づく表記
 お問合せ


 

 


日付:

2005/11/15

タイトル:
すみれの花の砂糖づけ
著者:
江國香織
出版社:
理論社
書評:

 

 「詩の中の詩」−そんな矜持がみえみえの表題だが、気分としては詩小説?本命の小説が出来上がるまで、桝目の外に待機させられていただろう感性のあれこれを思えば、ピリッと塩味のあるこの甘さ、やはり油断がならない。おセンチな少女時代に戻るというのは反語だろう。

 詩は行間に木霊を競い合う山脈。行分け散文のキライはあれ、理に落ちる危うさは微塵もない。泥臭さを肥やしとした高見順・大先輩の手練手管から身をかわし、彼女はシャープな切り口に溢れ出る。勿論、磨けば光る原石としてなら、その資格は充分だ。

 「ちび」と言う作品は、そんな彼女の原風景。

   ちびだった

   なまいきだった   

   めだけはいつもあけていて

   なにもかもみてやる   

   と

   おもっていた

 遠近法をマスターしてからは、それこそ大人の貪欲さで、小説の網には架からないモチーフですら変幻自在、しかも手掴みのままだ。彼女にとって詩は散文の異域にあって、実人生の美味しい余り物である。

   なにもない場所に

   言葉がうまれる瞬間を

   二人でもくげきしたね

   あれは

   夜あけのバスにのって遠い

    町にいくときの

   つめたくうす青い空気くらい

    まぎれもない

   たんじゅんにただしい

   できごとだったね

         「なにもない場所に」  

 

 

 

 


全目録 海外文学 日本文学 芸術・デザイン 宗教・哲学・科学 思想・社会・歴史 政治・経済・法律 趣味・教養・娯楽 文庫・新書 リフォーム本 その他