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日付:

 

2008/10/14

タイトル:
スピリチュアリズム
著者:

苫米地英人

出版社:

にんげん出版

書評:

 

  心身二元論が神学と抵触して哲学的思索を深めたように、量子力学の今日的な成果として「脳科学」の日進月歩がある。ちなみに人夫々の精神作用は実測可能なドーパミンやアルファー波として数値化され、「覚醒原理」になんらかの手懸りを与えるものらしい。しかし、一方で未だ得ないものを得たりとする性急さが新たな迷信を産出してもいる。「変性意識」はいわばその恰好のモデルで、スピリチュアリズムという鳥籠で羽ばたくことになるのだ。著者は「スピリチュアリズムは科学ではない」との言説から述語を切り離してタイトルとし、本文でその理由を詳説している。

 自己暗示に他人を巻き込む催眠術、その手法が常習化し強迫観念となったのが洗脳で、その洗脳集団がカルトと呼ばれる。どの世界にも野心家はいるものだが、ちなみにイギリス経由チベット帰りで箔を付け、本場のパブテスマを受けてその気になれば誰だって明日は「本物のイカサマ師」である。あとは自家撞着に火のついた御託宣次第、ワルの資質如何によっては厄介な社会現象にもなりかねない。かつてのオーム真理教の浅原教祖しかり、一大ブレークして今をときめく江原啓之しかり。

 怪物退治の怪人を私たちは英雄と呼ぶ。ギリシャ神話の壮大な世界からシャーロックホームズの近代的知性に至るまで、どのようにメディアが様変わりしようとも、時代とともに進化するのがエンターテインメントの世界である。トンデモ本からハウツウ物まで頓に猛威を振るう昨今、科学のメス裁きの確かな新種のエクソシストが現れたのも頷ける。今回、登場願ったのは「脳機能学者」として名声を博した反オカルト主義者である。脳のメカニズムが解れば幻想を自意識から切り離すのは容易であろう。霊魂の因縁話にも足が付く。

 別にどうってことはない、ただのハイカラ趣味。そんなエセ霊感師を著者はやんわりと葬る。「実は、スピリチュアリズムとは一見アート的に見えて、似て非なるものです。できの悪いファッションのような気がします。端的に言うと、ご都合主義のかたまりなんです。」

 読者サービスとして江原啓之に多くのページを割きながら、実は、オームの理論的支柱である中沢新一がターゲット、物議を醸した「ポア(殺せ)」という救済指令は半可通な竜樹の中観思想の解釈にある、と厳しく喝破。我国の安全神話を崩壊させた真犯人は、教義と狂義の違いを意図的に撹乱する確信犯でもあった。未曾有の国難に直面したアメリカ帰りの著者の活躍はこれからだ。
 




 

 

 


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