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日付:

2005/10/19

タイトル:
少女遊戯
著者:
宝野アリカ
出版社:
愛育社
書評:

 

 子どもは、泣きべそを掻いたり笑い転げたりするけれど、いつのまにか身体ごと忘れてしまう。結局、子どもの情景は大人たちの一方的な創作なのだ。夕焼けがなつかしい鳥影を運んだり、お菓子の城が気配のテーブルに時折、影を落とすのも、物心就いた男女の夢の中だからこそ。多分、欲求不満の炙り出しのようなものだろう。

 しかし、マットの上に片足立った時の奇異な感じや、習い覚えたばかりの自転車のバランス感覚とかは妙に忘れられない。動作や身振りの原体験は長持ちがする。人の学習に纏わるものは、強迫観念もそれだけ根強いのだろう。

 生地かカマトトか、目くじら立てても仕方がない。セックスが観念の投影であれば、もう立派な大人の世界にいる。問題は言葉の使われ方だ。多分、「少女遊戯」は作者の意図した通りの詩であろう。幼さは中性だから少女は少年でもある。性の注射針には目を瞑るだけで良い。

  自由も

  煌めきも

  たくさんの恋も

  羽ばたいてももう

  闇さえ震わせもしない

  私は孔雀

  飼われた籠の

  扉はいつも開いている

  でも 蒼い朝を

  見上げるだけ

  どこにも行けはしないの

          「かなしい孔雀」

 この舞台の定位置から、彼女のパ・ド・ドウが始まる。やさしいまどろみ、新しい靴をはいた日に襲われる不幸の予感、血に染まる快楽、パレットに拾われた水仙の華やぎ、etc.精一杯、思いの丈を描くまでは良い。

  滴る蜜が 胸に流れ

  それでも爪を埋もらせ

  磔刑になり 皮を剥がれる塊は

  わたしの歯形も残さず溶ける

 もしこんなふうに、愛されたいなら、妖精ごっこはお終いだ。

 もう一度、宝のありかを探せ!!

 

 

 

 

 


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