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日付:

2005/09/20

タイトル:
聖徳太子と憲法十七条
著者:
花山信勝
出版社:
大蔵出版
書評:

 

 憲法論議が姦しい。が、第九条を機械の部品のように弄るだけならいつまで経ってもノイズを出ない。聖徳太子の起草した憲法は人間論である。我国最初のこの成文法は世界最古の平和憲法でもあった。しかも党派の別なく吟味せよ、と付記されている。

 「憲法十七条」は大乗仏教のエッセンスが鏤められた名文である。世俗的な賞罰与件は韓非子に、冠位十二階の登用は礼記に拠る。前代未聞の戦力放棄に就いては第十五条に明かである。太子にとって戦争とは信頼の欠如による対立概念にほかならない。全条文は明解な「和睦」のロジックによって貫かれている。この楯や矛を捨てた「和」のファンダメンタリズムは日出る国宣言となって大陸に届き、後の大化革新に結実する。先見性と外交手腕を併せ持つ超一流の人物によって文化国家建設の礎石が築かれていたことになる。

 この平和主義、やはり尊い犠牲があった。著者は本書で太子の高貴な家系が絶えた「謎」の部分にスポットをあてている。閥族の闘争による周辺事態の被害を最小限に食い止めるために、太子の長子山背大兄王(やましろのおおえのおう)ほか一族は自決する。

 このショッキングな事件は釈迦の捨身飼虎の本生譚や、雪山童子の施身聞偈と重ねて論じられている。一面、不可解な感じも否めない。

 もしかしたら原爆投下による我国の敗戦と附合しているのかも知れない。国の規範が世界の規範となるまで千年余、そんなオカルト史観まで抱え込んでしまいそうだ。

 

 

 


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