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日付:

2011/04/11

タイトル:

[魂の叡智]日月神示

著者:

中矢伸一

出版社:

徳間書店

書評:

 

  文明社会は進化の名のもとに様々な装いを凝らした<第二の自然>となって私たちの暮らしに深く拘っている。だが古代・中世・近代の思想潮流を俯瞰して気づくことはオカルト抜きに人類の歴史は語れない、ということである。しかも科学の粋を集めた現代社会の文明の頂点でさえ保守反動めいたパフォーマンスが出現する。核の脅威を決定付けて第二次大戦は終結し、ニューヨークを初め大都市の中心では若者たちの間でヒッピー、ヨーガ、禅が身体知の祭典として空前のブームとなった。又、ニュートンの万有引力の発見が錬金術の副産物であるかもしれないことは有名なエピソードを通して人口に膾炙している。そもそも<賢者の石>をキーワードに語り継がれる世界には宗教的な背景があり、その宗教的心情には、恩寵を全能の神の手に委ねると同時に、天変地異をも人災と感じ、魂の聖なる記号として言葉を扱う謙虚さがある。その謙虚さとは裏腹の傲慢がのさばることで自然との違和感が生じ、ひとの弱さを逆手にとる魔法が生まれた。この魔法から科学への長い道程が人類の正史であるかのように教え込まれて来たのだが、オカルトこそ原初のカオスに立ち込める黒い霧であった。かつての光化学スモッグによる公害や、現在直面している原子力発電所の放射能被害の恐怖には事実関係の究明によるなんらかの解決の糸口もあろう。だが、オカルト的な世界観は今日に至るも啓示信仰と迷信の境界線を限りなく曖昧にして謎を深めるだけだ。これらも煎じ詰めれば言語操作とリスクの問題となる。即ち、「初めに言葉があり、言葉は神と共にあった」が、その言葉を神ならぬ人が用いることで責任の所在もまた人の手に移されたということである。

 前置きが長くなったが、「日月神示」はごく平凡な神官の脳裏を偶々襲った恐れ多くも世直しの神託である。民間伝承によくある単なる狐憑きなら誰も本気に取り合わないし問題はそれほど大きくはならない。日本という島国のローカルな小神に過ぎなければ権威のない戯言として無視されるだけだが、もし日本が地球の中心に位置する世界の雛形であるとするなら、ことは極めて重大である。いつ人類史が塗り替えられてもおかしくない驚天動地の世界観ということになる。そのときこそ、うだつのあがらぬ三流画家のお筆先は、ナザレの漁夫たちのペンの動きにもまして神聖視されねばなるまい。著者の中矢伸一氏は米国留学中に日本民族の特異性を自覚した国際ジャーナリストで、この方面にはうってつけの解説者でもある。<○とゝ>の合体を核とした言霊ワールドの奇跡を微に入り細に亘り検証している。本書に描き出された岡田天明なる稀有な人物の神懸かり事件は、複雑多義な思想を懐胎しつつ、時代の病巣を抉り出した「大本教」の教義を補完するだけあって、一過性のパフォーマンスに留まることはなかった。

 なにはともあれ、「日月神示」の研究を手懸けてから14年の歳月を経て、20冊にも及ぶシリーズの総集編として完成した本書だが、この種の著作にありがちな贔屓の引き倒しといった感は微塵もない。持ち前のセンスの良さと博覧強記に導かれ、「日月神示」こそ、魂の最高の叡智の書であり、仏教とキリスト教の二極間を底辺とした正三角形の頂点に現われる「ミロクの世」の予言書でもあると誰もが思い知るに至る。類書も数ある中で著者の思い入れの最も深いこの神書は具体的な行動を示唆する福音書、しかも仏教的な色彩が濃厚な覚醒の書でもある。その存在感たるや堂々としたもので、確かにDNAや集合的無意識やアカシック・レコード等々を持ち出してガードしても浮いた感じはない。日本列島は霊界の<龍紋>であり、そのユニークな地形が東西南北に拡張分離されて四大大陸となったというビジュアルな発想は神仏習合論に最後の鉄槌を加えた。もし日本がムーやアトランティスのような運命に遭遇すれば地球が宇宙の迷子になるやも知れぬ。残念ながら著者の指摘にもある通り、天皇を世界の盟主とする神本佛迹論が西欧流の覇権主義に毒されて国家神道となり世界大戦に突入した事実は否定し難い。さて、本書のメインテーマでもある「岩戸開き」の前兆でもあろうか。仏教伝来と同時に「艮の金神」が封じ込められ鬼門として忌み嫌われた東北地方が1000年に一度の地震による大津波に襲われた。いわばこの自然によるホロコーストが神意であるなら、痛ましい犠牲者の中には霊界の戦士として選ばれた義人も少なからず存在する筈である。
 

 

 

 


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