な・ なんだ、これは!霊界腹話術? もし、お宝めいて吹聴される奇妙奇天烈な<霊言シリーズ>の録音テープが本当なら、この教祖は多重人格症患者であることの何よりの証拠となろう。今や、所狭しと大手書店の書棚を占拠する「幸福の科学」の出版物。演出過剰なだけの通り一遍の解釈は茶番以外のなにものでもないが、一朝ことあれば冗談事では済まされまい。横並びの数十万信者の同調圧力たるやそれこそ相当なものであろう。そもそも新興宗教という時代の病には処方箋がない。混乱に乗じた異常の中の正常というわけだ。背広にネクタイのサラリーマン風の線病質で貧相な猿顔のこの男は東大出のエリートである。いや、場合が場合だからとんでもないオチこぼれと言ったほうがよさそうだ。それが逆に一部の民衆の共感を呼んだ。
トルストイの小説アンナ・カレリーナの中に「幸福はみな同じような顔をしているが不幸にはさまざまな表情がある」という有名なセリフがある。無理・無駄・無用を捨象して無味乾燥な共通項で括られた合理主義は畢竟奴隷制社会の鎖にほかならない。この箴言の真意はそこにあるのだが、のっぺらぼうの偽善社会にメスが入るや明暗さまざま、特に芸術家の研ぎ澄まされた感性で描かれた世界は奥深く美しい。ことほど左様に幸福は科学の与り知らぬところにあって、人間的な真実は仮面の下に隠されたままなのだ。この悲劇の女主人公は生きるために死を選ばねばならなかった。
アサハラのライセンスは真っ赤な偽物だったが、こちらは謂わば業界のモグリ、聖書の基本的な理解にも欠けている。デアール調のかったるい谷口雅春の声音はほぼそっくりだが、「遅れてここ(=霊界)に来た妻はまだ環境に不慣れなので」と馬脚をあらわしている。性差を超えた天使的存在には一位・二位の位階制があるだけで夫婦も家族もないはずなのに。免疫を欠いた新型ウィルス対策は触らぬ神に祟りなしだが、宗教の真偽を測るリトマス試験紙は<政治色>と知っておこう。さあ、その上でしっかりとこの人を見よう。厚顔無恥な教祖様のヒステリックな陣頭指揮には背筋が寒くなりはしないか。
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