天上に咲く花は地上に災厄を齎す。抒情の詩美を確立し、生前既に国民的桂冠詩人の栄誉に浴していた三好達治の意外な一面を浮き彫りにした評伝。幼少の頃から著者の脳裏に焼きつけられた数奇な人物の半生が赤裸々に描かれている。この作品は「父・萩原朔太郎」で文壇にデヴューした著者改心の第二作。忘れがたい思い出と許しがたい事件が、執刀医の達者な手捌きで、悲喜こもごものこの世ならぬ美しさを醸し出す。
戦時下の片田舎の漁村で叔母を巻き添えにした詩人・三好達治の赤貧洗うが如き生活は、地獄の花のように、日本海の日没と重なり合う。その鬼気迫る情景を追って、一切の私情を廃し事実に即した表現にのみ徹する著者の姿勢は、その類稀れな描写力と相俟って、将来の小説家としての天分を申し分なく発揮している。
それにしても詩というオブラートに包まれた劇薬のような主人公の性格をまともに被り、破綻を来たす叔母の姿は、痛ましい限りだ。図らずも、時代を超えたファンファタールとして、実兄にあたる朔太郎とは異なるモダーンの幻影となった。
光太郎・千恵子の鴛鴦夫婦を同化の悲劇とすれば、この二人の同棲生活は異化の惨劇と言えるだろう。
|