トップページ
 古本ショッピング
 書評
 通信販売法に基づく表記
 お問合せ


 

 


日付:

2006/11/19

タイトル:
天皇詩集
著者:

天皇詩集編集委員会 編

出版社:

オリジン出版センター

書評:


  天皇陛下万歳!と叫べば人殺しでなくなる。然るに、現人神から象徴天皇へ、軍の謀略説とやらで日本は戦後を迎えた。元号改正のドサクサに紛れて戦争責任をうやむやにした保守反動。今度は地域差別や経済政策で問題を蒸し返す。もし、こう言ってよければ、天皇の免責あっての平成の世なのかもしれない。ちなみに、オカルト史観では現下の不況は昭和天皇の喪が明けないからだと言う。

 天の死臭を嗅いだから「天皇詩集」なのか?−冗談は別にして、天皇制自体が裏がえしに穿かされたパンツでは、どんな讃歌も様にならない。裸の王様のほうがまだましである。それを自明の前提として本書は編まれた。白地に赤く血に染められた日の丸もはためかなければ、北を指す磁石のような捧げ筒もない。けれども、神として、人間として、この奇怪な人物が昭和史に果たした役割は馬鹿にならない。戦中・戦後の権謀術数により二度殺された事実は疑いようがないとしても、一億一心の箍が緩むまでに、どれ程の風が吹いたことであろう。

 崩御に直面した怨念の血祭り、蜂起する者はやすやすと目標を超えてしまう。揶揄あり、罵倒あり、投石あり、何があっても可笑しくないのが、この「反天皇」アンソロジーである。総勢八十八人の烈士たちの共通の思いは、「あ、そう」の一言で、むこうを向いたオットセイよろしく、ベッドの血の海から御立ちになった遣り切れなさにあるだろう。


  「罪と罰」のラスコリニコフではないが、金貸しの老婆を無意味と侮れば、意味の重さに就いて考え込まざるを得なくなる。取り敢えず、「意味=価値=勲章」 と一連の等式で、この問題に水を向けてみよう。、勲章の数だけ答えを見出す筈だ。人殺しの勲章を筆頭に、押しなべて「無邪気」の結語で一括りしたのが、ご存知、谷川俊太郎である。

敵の首を一番たくさんとった人に−/頭骸骨でできた勲章をあげましょう/年じゅうおなかの下っているひとに−/落とし紙でつくった勲章をあげましょう/海に向って吠えている詩人には−/砂の勲章をあげましょう(あ、この勲章は欲しいなあ:筆者)/原子爆弾を落とした人に−/原子爆弾のついた勲章をあげましょう/勲章をいっぱいもっている人には−/もうひとつ勲章あげましょう/勲章つくりの上手な職人さんにも−/やっぱり勲章あげましょう/みんなで勲章のあげっこをしましょう/生きているうちにああこんなに無邪気に     

                   

                   「勲章」

  みごとな言葉の錬金術で勲章は天皇のメタファーとなった。戦後40余年、天皇と同じ眼の高さで競い立つ有名無名の詩人たち。わけても谷川俊太郎は頭一つ抜き出ている。紆余曲折の花火を横目にみながら、無邪気という爆弾で邪悪な煙を立ち昇らせ、屈折したパフォーマンスを披露して健康な笑いを誘う。やはり詩人の王として玉の輿にのるだけのことはある。−今様・万葉の編集の労をねぎらい、汗と埃を払って筆を擱く。やあふんぬ(I beg your pardon)?
  

 

 

 


全目録 海外文学 日本文学 芸術・デザイン 宗教・哲学・科学 思想・社会・歴史 政治・経済・法律 趣味・教養・娯楽 文庫・新書 リフォーム本 その他