21世紀は衝撃的な米国の9.11同時多発テロで幕開けとなった。クリントンの失策を火種にブッシュ政権がトリガーとなったとも言われる。真説、珍説、妄説の、飛び交う中で、M9クラスの激震の余波は漸くおさまった。或いは、より深く潜行したと言うべきかも知れない。本書は複雑怪奇な外交問題を根底から明らかにしてくれる恰好の教科書である。
ハンチントン博士の「文明衝突説」では<キリスト教社会対イスラム国家>が冷戦後の基本構造であり、軍事大国の世俗社会と武装する神権政治が水と油のように反目し合うことになるのだが、本書では、イスラム原理主義者の過激派をテロリズムの名のもとに糾弾し国際社会が包囲網を張る、と言う懐柔策に論点が移行している。これは百戦錬磨のムバラク・エジプト大統領がその持ち前の政治手腕でアピールして実現した犯罪組織の孤立化作戦でもある。少なくとも「21世紀の十字軍」の途方もないシュプレヒコールで、同じ歴史の過ちを繰り返し、底なしの地獄に陥ることだけは何とか回避出来た。しかし、エネルギー問題が絶えず背景に見え隠れする利権争いの解決なくして戦火がおさまる筈はない。又、アメリカ一国主義が浮上すれば巨悪の源泉が民主主義社会を歪め始めるだろうし、事実、国際連盟の脆弱な体質も大いに懸念されている。この「国際社会対テロリズム」、もしかしたら「民主主義対覇権主義」と置き換え可能なのかも知れない。
この総論・各論ともに精緻を極めた地政学の書は、アル・カイダやタリバンの洗脳部隊がアラーの名のもとに破壊工作を続ける今日的様相を客観的なデータを駆使して事細かに分析批判している。
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