美文調でしか詩を書くことが出来なくなった室生犀星
は詩作を断念して小説に向かい、後年、散文の大家としての地位を獲得する。そんな彼の懐に、全く思いがけず飛び込んで来たのが、生来の詩人で旧知の人、朔太郎の娘であった。この金の卵を賞美礼賛して世に送り出す語り口が実に素晴らしい。
葉子。これこそはお父様がなそうとして成し得なかったこと、小説と言う文意体系にぴったりと当て嵌まる要件のすべてなのです。
晩年は雌雄を決するかの如く背を向けてしまう二人だが、再び魂の糸を縒り合わせることとなる奇しき因縁を思わない訳にはいかない。晴れの授賞式に際してのこの玉虫色のスピーチ、人生の達人として、当時を偲ぶ芸術家として、功成り名遂げた者の矜持を思わせる。この犀星の予言に寸分違わず、自ら伝記文学の殻を破り、父の資質を乗り超えて、小説家として飛び立つ作者の姿があった。
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