トップページ
 古本ショッピング
 書評
 通信販売法に基づく表記
 お問合せ


 

 


日付:

 

2009/7/8

 

タイトル:
倒産はこわくない
著者:

奥村 宏

出版社:

岩波書店

書評:

 

 <倒産即破産>というまことに情け容赦のない暴論がある。地震といえば直下型しかないとする発想に似ている。「バンカー」に嵌って大叩きし、人格そのものまで否定するゴルファーの自虐的な強迫観念といえなくもない。ビギナーにとってガード・バンカーは救済手段とはならないようだ。この短兵急な思考停止は二段底になっていて「死ねばもっと楽になるだろう」というオマケまで付く。場合によっては金銭勘定で全生涯を精算することにもなりかねない。もっとも、高圧的な自殺幇助の眼線を感じての話だが。こうして弱きものは悪魔に易々と魂を売るはめになる。ところで、この前近代的な旧弊、意外に根強いのだ。本書の著者はまるで臨床医であるかのように、この経済的な病に就いてこう断言する、「倒産はこわくはない、むしろ会社革命の絶好の機会である」と。

 株式制度は破産法の副産物として生まれた。株主や労働者が企業責任を巡って矛盾葛藤を繰り返す資本主義社会の一連の文脈の中にそもそも法人格は腰が座らない。勢い倒産の法律上の定義自体が曖昧となり、責任の所在も明らかではない。債権契約一つとっても裁判による判例主義しか問題解決の糸口が掴めない。企業先進国で訴訟社会でもあるアメリカにして漸く金融機関側の貸し手責任という考え方が生まれた。どうやら諸事情を鑑みた場合、「借りた金を返す」のは個人間のルールとはなっても、法人契約には当て嵌まらないものらしい。何れは制度上の欠陥に胡坐をかいた価値観の歪みと偏重は是正されなければならないが、<陰湿な禁じ手による病巣>の速やかな摘出は無論のこと、今後とも法律以前の民主的な根気の要る話合いが必須となろう。

 1950年代に産業構造が重工業化することで経済成長が始まった。その時、石炭産業や繊維産業などの在来型企業の倒産が続出した。現在も同様の産業構造の転換期にある。しかもゼロ成長への移行期に於ける構造改革だから大型倒産が極く普通の事態となる。好況時の倒産は放漫経営などと揶揄される社会悪でもあったが、これからは痛みを伴う必要悪として受け入れなければならない。小泉劇場と言われて人気を博した改革路線が、その実、時代逆行のとんでもない茶番であったことを何故、見抜けなかったのか。弱者切捨ての大判振舞いが白昼堂々と行われたに就いては国民の側に問題がなかったわけではない。

 産業人か企業人かを問わず、「倒産から会社を守れ」ではなく「倒産はこわくない」と開き直ることで、意識の内側から会社を変えてゆく。その具体的な方法として著者が提案するのが、誤解されていたグラムシの工業評議会の再評価と思想的実践である。いまや、当初の目的に反して非効率この上ない「規模の経済」と「範囲の経済」を徹底的に解体し、機能分解することで21世紀企業の進むべき方向を見出さなければならない。それが認識論としては実体論的に捉え、運動論としては機能論的に捉える企業の社会的責任のあり方であり正しい改革路線でもあると言う。 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


全目録 海外文学 日本文学 芸術・デザイン 宗教・哲学・科学 思想・社会・歴史 政治・経済・法律 趣味・教養・娯楽 文庫・新書 リフォーム本 その他