超法規的なオキテ社会の勲は「天誅と自刃」、これは右翼の心臓部分にあたる。もっとも、今流行りのメディアに培養された「ネット右翼」や「新保守」等はその限りではない。著者は自己のスタンスを明確にするために、あえて「行動右翼」と朱書してから本題に入る。業界きってのご意見番にお墨付きを貰うのだから、これくらいのマナーは心得ておくべきだろう。かつては天敵の左翼が獅子身中の虫を駆除して呉れたものだが、下手な線引きは藪蛇どころか命取りにも成りかねない。冷戦終焉の結果、右翼は生きることなく生き延びている。国全体の右傾化に足場を奪われ、法改正の波に洗われ、街宣活動もままならない。合法的な食い扶持に預かるには多少控えめなのもやむを得まい。拝金主義の裏をかくのは容易なことではないのだ。陳腐化した愛国心と敗戦のトラウマでごった返し、浮かれ騒ぐ世間一般とは対照的な八方塞。右翼の素顔は意外なところにあった。うわべは同じ穴の狢よろしく右往左往なのだが。
取材活動のきっかけは平成18年8月15日に起こった自民党・加藤紘一氏宅放火事件。犯人は現場で自刃、靖国神社参拝の日程繰上げに抗議しての反抗であった。残念ながら、隠れ右翼の面目躍如とまではゆかず、豁然と一時代を切り捨てた山口二也のかつての勇姿とは比べようもない。時代は疲弊し鈍磨している。メディアの楽観ムードに押し流され、「言論には言論で」の鈴の音にあやされ、人騒がせなパフォーマンスで終わってしまった。確かに手応えありの問題提起なのだが、一人一党主義の限界も同時に匂わせずにはいなかった。−裏社会に詳しい著者が、自らの出自に今日的な難問を慎重に手繰り寄せながら「右翼の言い分」としてまとめたのが本書である。内ゲバが輪郭作りをする左翼思想とは全く異なる複雑な荒れ模様、まさに心情の右翼ならではの色分けがそこにある。
非合法な「拉致事件」然り、紛争状態の「領土返還」然り、外交手腕が如何に優れていようとも、常識外れの「問題以前の問題」は元々民主主義とは無縁である。一昔前なら、必ずや本領を発揮しただろう「闇の交渉人」にとって、まさにお誂え向きの縄張りではないか。−一頃、全国のお茶の間で人気を博したワイドショー番組に「ご近所の底力」があった。しかし、裏通り浄化の短兵急な町内会のクリーン作戦が、それ以上に厄介なグレーゾーンを抱え込んでしまったあの皮肉は何だろう。もしかしたら、クロをシロと言い包めるエリート弁護士が我が世の春を謳歌するための、露払いだったのか? そうかもしれないし、そうでないかもしれない。問題は、許しがたい陰湿な「ケジメ」が、「右翼もいる明るい社会」に水を差してしまったことである。
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