歴史は夜つくられる。同時代の証言も体制側の権威保全の仕組み次第で闇に葬られ、まるでクローン操作の新種のような鬼退治の桃太郎が誕生する。いまや国民的英雄として人後に落ちない義経だが、その実像を求めて、時代考証に詳しい著者は「判官贔屓」をキーワードに歴史の暗闇に降りてゆく。
義経伝説の謎を解く第二の鍵は、兄・頼朝との確執である。「義経記」を頂点とする判官物で、武勲の誉ればかりが全面に出て以来、政治手腕に長けた真の実力者の影は薄い。
第六天の魔王・後白河院に対峙する東国の武将頼朝。その配下にあって一際異彩を放ちながら、公家中心社会と武力の基盤強化の間を揺れ動く兵法家。著者の推理の糸は権謀術数の幾何学模様となって歴史の余白に編み込まれてゆく。
権力に纏わる悲願を、百姓以下の出自に託した一連の義経物語、単なるカタルシスで終わらせたくないものだ。
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